大阪高等裁判所 昭和23年(ナ)2号 判決 1948年11月25日
原告
八木幸吉
被告
兵庫縣会議員選挙管理委員会
主文
原告の訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
請求の趣旨
原告訴訟代理人は昭和二十二年四月二十日執行せられた參議院議員選挙において兵庫縣選挙區地方選出議員の選挙會が同選挙區の地方選出議員候補者たる原告を當選人と決めた決定の有効であることを確認するとの判決を求めた。
事実
原告は昭和二十二年四月二十日執行せられた參議院議員選挙に際し公職適否資格審査を受け、時の内閣總理大臣から公職追放覺書該當者でない旨の確認書の交付を受け、兵庫縣選挙區から地方選出議員として立候補し選挙の結果同月二十三日の選挙會で當選人と決定せられ、同日選挙長から當選の告知を受け、即日選挙長に對し當選承諾の屆出をして選挙長から當選証書の交付を受けた。
然るに同年五月二日時の内閣總理大臣片山哲は原告を公職追放覺書該當者と指定し、同月五日原告に対し内閣書記官長名義の電報で「關係筋の意向により貴下の資格は先の非該当の決定を取消し今回該当者と決定した」との通知をしたため原告は參議院議員選挙法第五十七條にいわゆる選挙の期日後において被選挙権を有しなくなつたものとして當選を失うたことになるのである。けれども原告は右資格審査請求に際し提出した調査表にもとずき審査された結果公職追放覺書非該當の確認書の交付を受けておるから、これを取消し追放該當者と指定するには(一)右調査表に記載されていない事由にもとずくか、(二)調査表に虚僞の記載があつたか、(三)さもなければ調査表に事實をかくした記載があつたかでなければならないのであるが原告は右何れの場合にも該當しないから右追放該當者としての指定は昭和二十二年閣令内務省令第一号(昭和二十二年勅令第一号施行に關する件)第九條第三項に違背してなされた違法な行政処分であるばかりでなく、その指定の通知の方式もその行政官庁である内閣總理大臣名義をもつてせず前記のように當時すでに廢止せられていた内閣書記官長名義をもつて簡略な電文によりなされた違法な形式によつたものであつて、其の後まだ適式な通知がなく、右いずれの点からしても右追放指定は無効であるか又はその効力を生じていない。それで原告は依然として前記選挙において決定せられた當選を失うものでないから參議院議員選挙法第七十三條衆議院議員選挙法第八十三條第一項にもとずき右当選の有効なことの確認を求めるために本訴を提起すると述べ
被告訴訟代理人は主文と同趣旨の判決を求め答弁として參議院議員選挙法にもとずく當選の効力に關する訴は当選の告示の日たる昭和二十二年四月二十三日から三十日以内に提起しなければならないのに、原告が本訴を提起したのは右出訴期間經過後の仝年十一月五日であるから不適法である。なお原告が昭和二十二年四月二十日執行せられた參議院議員選挙に際し兵庫縣選挙區から地方選出議員として立候補し、同年四月二十三日開会の選挙会で任期六年の議員の當選者として決定せられたことと同日同選挙區の選挙長から原告に対し当選の告知を爲し、同日原告が選挙長に対し当選承諾の屆出を爲し、よつて選挙長から原告に対し同日附で当選証書を付与したことは認めると述べた。
理由
參議院議員選挙法(以下參と略称)第五七條(第六九條)衆議院議員選挙法(以下衆と略称)第七〇條は当選人選挙の期日後において被選挙権を有しなくなつたときは当選を失うと定めている。そこでここに当選を失うとあるのは一体いつからいつまでの間に起り得べきかをまず決する必要がある。思うに両院の議員たる資格は選挙会において当選の決定を爲し、当選人が当選の告知を受けて当選承諾の屆出を爲すことにより定まるのであるから、当選承諾の時を限界として單なる当選人たる地位と国家の公務員たる議員の地位とが截然區別せられることになる。故に当選の喪失は当選の承諾前においてのみ存し、当選の承諾後においては公務員たる議員の資格の喪失はあつても、最早当選の喪失はあり得ない(參第六〇條第六九條衆第七三條)。それで參第五七條衆第七〇條に当選を失うとあるのは選挙会における当選決定後当選承諾の屆出をするまでの間における当選人としての失格を定めたものであつて、当選承諾後における議員たる資格の喪失を定めたものでないと解するのが正しい。もつとも法律は選挙の期日後において被選挙権を有しなくなつたときといい、当選決定後とはいつていないけれども、法の精神と当選人の繰上補充についての參第五六條第八項衆第六九條第六項の規定から推すと、当選人たる者が選擧期日後当選決定前に被選挙権を失つた場合には一応これを当選人と決定した上更めて參第五七條衆第七〇條によりその当選を失はしめるというような迂遠をさけて、初めからこれを当選人と決定すべきものでないと解するのが相当である。かように当選人たる地位は当選決定後当選の承諾までの間に失はれるに過ぎないから、一旦当選の承諾をして公務員としての議員たる資格を得た者はその後の失格の当否をもつて当選の効力に関するものであるとして、參第七三條衆第八三條により出訴する権能を有する限りではない。
本件においては原告は当選の決定を受け、且つすでに当選の承諾をなし、その後に追放處分を受けたというのである。そして追放処分の効力は將來に向つて生ずるに過ぎないから、追放処分の有効無効議員たる資格の存否に関し、当選の効力の有無に関しないこと一見明白である。故に原告は右追放處分の効力を云爲して參第七三條衆第八三條により本訴を提起する権能を有する限りでない。
それで民事訴訟法第八九條により主文の通り判決する。
(石神 大嶋 熊野)